リュウジが炎上しても味の素を使い続ける理由——うま味調味料「体に悪い」論争の正体
この記事のポイント
- 料理研究家リュウジが「味の素」を使うたびに炎上する
- なぜ2026年の今もうま味調味料は「体に悪い」と言われるのか? WHO・FDAが安全認定済みでも消えない論争の正体と、1968年生まれの誤解の理由をひもとく
目次
味の素を使った料理を投稿したら、「毒を盛ってる」とコメントが殺到する。そんな出来事が、2026年の今も繰り返されている。
- うま味調味料の主成分グルタミン酸は、昆布・トマト・チーズにも自然に含まれるアミノ酸
- WHO・FDAはすでに1987年から「一日摂取量の上限不要」という最高安全カテゴリを認定している
- 「毒」論争の原点は1968年にアメリカ人医師が書いた1通の手紙だった
- 「化学調味料」という呼び方が消え、「うま味調味料」に改名されたのは1990年代のこと
- 科学的根拠では「安全」なのに論争が続くのは、心理的・社会的な理由がある
リュウジが使うたびにSNSが荒れる、あの繰り返し
YouTube登録者数433万人を超える料理研究家がいる。リュウジさんだ。レシピに「味の素」を積極的に使う。それだけで「毒を盛っている」というコメントが殺到する。このサイクルが2026年の今も繰り返されている。
「マジでなにが体に悪いのかちゃんと説明してほしい」。リュウジさんがXに投稿すると、今度は論争が始まる。「人殺し」「悪魔崇拝者」とまで言われたこともある。
2023年10月、その経緯をまとめた本が出版された。タイトルは『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』(集英社)。出版後もXのトレンドに入るほど話題を集めた。
なぜ科学的に安全だとわかっているのに、「毒」論争は終わらないのか。まずは、うま味調味料の正体から整理しよう。
うま味調味料の正体は「昆布と同じ成分」だった
うま味調味料の主成分は「グルタミン酸ナトリウム」というアミノ酸の一種。難しそうに聞こえるけれど、実は毎日の食事に自然に含まれている成分だ。
昆布には100gあたり2〜3gのグルタミン酸が入っている。トマト・チーズ・干しシイタケにも同じ成分がある。人の母乳にも含まれている。うま味調味料は、そのグルタミン酸を取り出して粉末にしたもの。工場で作っても昆布から取り出しても、成分としては同じだ。
それなのに「化学調味料」という言葉のせいで、怖い印象を持つ人は多い。この「化学調味料」という名前は、1960年代に業界団体が自ら使い始めたもの。後に「化学」の字が危険に聞こえると気づき、1990年代に「うま味調味料」と呼び方が変わった。でも「化学調味料は体に悪い」という記憶は、名称が変わっても残り続けた。
「名前が先に広まって、実態が追いつかない」。これがこの誤解の根っこにある。
「毒」論争のはじまりは1968年の手紙だった
「チャイニーズレストランシンドローム」という言葉がある。中華料理店症候群とも呼ばれる。その始まりは1968年にある。
アメリカ人医師ロバート・クウォック氏が、医学専門誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に手紙を投稿した。「中華料理を食べた後に頭痛や動悸がした。原因はMSG(グルタミン酸ナトリウム)ではないか」という内容だった。
これが世界中で報道され、「MSG=体に悪い」というイメージが一気に広まった。アメリカでは「NO MSG」と書いた看板を出す飲食店が続出した。
ところが後の科学研究で、この因果関係は次々と否定されていく。二重盲検法(つまり、誰が何を食べているか隠した状態での実験のこと)を使った研究で、MSGを食べても食べなくても、症状に有意差は認められなかった。
1987年、WHO(世界保健機関)とFAOの合同専門家委員会が「グルタミン酸ナトリウムはADI不要」と認定した。ADI不要とは「一日摂取許容量の設定が不要なほど安全」という、食品添加物の中で最高の安全カテゴリを意味する。米国FDAも1990年代に同様の見解を発表した。
1968年の1通の手紙から約20年かけて、科学は「安全」という結論を出した。しかし誤解は、科学の結論よりずっと速く、広く広まっていた。
SNSで「毒」説が消えない3つの理由
では、なぜ今でも「体に悪い」という声がなくならないのか。理由は3つある。
1つ目は「否定の証明の難しさ」。「Aは体に悪い」という主張は、証明できなくても「絶対に安全とは言い切れない」という形で残り続ける。「安全です」と証明するほうが、科学的にも情報発信的にも難しい。
2つ目は「化学」というイメージ。昆布由来のグルタミン酸と工場精製のグルタミン酸は同じ成分だ。でも「工場で作られた」と聞くと不安を感じる人は多い。この感覚は理屈では消えにくい。
3つ目はSNSの拡散の仕組み。「味の素は安全です」という投稿より、「毒です」という投稿のほうがリアクションを集めやすい。クラスで悪い噂が先に広まるみたいに、怖い情報ほど速く広がる構造がある。
この3つが重なって、科学的な結論が出ていても論争が続く状態になっている。
うま味調味料についての気になる疑問
Q. 普通の料理に使っても問題ない?
問題ない。通常の使用量であれば健康への影響を心配する必要はない。これはWHO・FDA・東京都保健医療局など複数の機関の共通見解だ。昆布だしを使う感覚で使えばいい。ただし塩分(ナトリウム)を含むため、かけすぎは控えよう。
Q. 「化学調味料不使用」の食品のほうが体にいいの?
必ずしもそうとは言えない。「化学調味料不使用」と書かれていても、酵母エキスや昆布エキスなどグルタミン酸を多く含む原材料を使っているケースは多い。成分としては同じものが入っているのに、表示の見た目だけが違うこともある。東京都保健医療局のFAQでも同様の見解が示されている。
Q. 「うま味」って何?
甘味・塩味・酸味・苦味に加わる「第5の基本味」のこと。1908年、東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗教授が昆布だしから発見した。今では英語でも「UMAMI」と表記され、世界的に認知されている概念だ。
Q. 「味の素」とMSGは同じもの?
ほぼ同じ。MSGは英語でMonoSodium Glutamate(モノソジウムグルタメート)の略で、グルタミン酸ナトリウムの英語名だ。「味の素」はその代表的な商品名にあたる。
Q. 子どもが食べても大丈夫?
WHOの認定では年齢による制限は設けられていない。母乳にもグルタミン酸は含まれているため、人は生まれた直後から自然に摂取している成分でもある。
Q. これからうま味調味料への評価は変わる?
すでに変わりつつある。日本うま味調味料協会が2025年末に発表した調査では、「ネガティブイメージがほぼ撲滅された」という結果が出た。「化学調味料不使用」と表示する食品も、この5年で大幅に減少している。科学と社会認識のギャップは確実に縮まっている。
リュウジが正しかった——論争が科学を広めた
リュウジさんが何度炎上しながらも使い続けたことで、うま味調味料の科学的安全性が広く知られるようになってきた。批判が来るたびに根拠を示して反論した積み重ねが、少しずつ認識を変えた。
1968年の1通の手紙から始まった論争は、60年近く経った今も完全には終わっていない。それでも、科学的根拠が社会に届きはじめていることは確かだ。
「毒」と「安全」の情報が飛び交うSNS時代に、根拠を調べて自分で判断する力はますます大切になっている。うま味調味料の話は、その力を試すちょうどいい練習問題だ。
なぜ流行っているのか?
うま味調味料(主成分:グルタミン酸ナトリウム)は1908年に池田菊苗博士が昆布から発見した成分で、WHO・FDAが安全性を認定済み。しかし1968年に医学誌に掲載された「チャイニーズレストランシンドローム」に関する手紙が、世界中に「MSG=体に悪い」というイメージを広めた。科学的には因果関係が否定されているが、「化学調味料」という言葉のイメージとSNSの拡散構造により、60年近く経た2026年の今も論争は続く。料理研究家リュウジ(YouTube登録者433万人超)が「味の素」を使うたびに炎上するパターンが繰り返されており、そのたびにXのトレンドに入ることも多い。日本うま味調味料協会の2025年調査では「ネガティブイメージがほぼ撲滅された」という結果も出ており、科学的根拠への理解は徐々に広まっている。
この記事の根拠
一次ソース 2件エビデンス 3件参考資料 1件
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●グルタミン酸は昆布(100gあたり2〜3g)、トマト、チーズ、干しシイタケ、母乳に自然に含まれる(日本うま味調味料協会)●WHO/JECFAは1987年にグルタミン酸ナトリウムをADI不要(最高安全カテゴリ)と認定●FDAもGRAS(一般的に安全と認められる)として認定●チャイニーズレストランシンドロームの起源は1968年のクウォック医師による手紙●二重盲検法を用いた研究でMSGと症状の因果関係は確認されていない(東京都保健医療局FAQより)●リュウジの書籍『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』は2023年10月発売(集英社)●日本うま味調味料協会は2025年末に「ネガティブイメージほぼ撲滅」と報告