火星衛星探査機MMXはなぜ火星ではなくフォボスの砂を持ち帰るのか、起源の2説と10g以上の試料から読む
この記事のポイント
- MMXは10月20日午前4時41分に打ち上げ予定
- 火星ではなくフォボスの砂を10g以上持ち帰る理由を、起源の2説、はやぶさ2の技術、有人探査の拠点という3点から読む
目次
2026年10月20日午前4時41分、JAXAの火星衛星探査機MMXが種子島宇宙センターから打ち上げられる予定だ。探査機の打ち上げ質量は約4,480kgで、H3ロケット10号機(H3-24L形態)が運ぶ。成功すれば、火星の衛星から試料を持ち帰る世界初の計画になる。
なぜ、JAXAは火星そのものではなく、小さな衛星フォボスの砂を持ち帰ろうとするのか。
- MMXは2026年10月20日午前4時41分3秒に打ち上げ予定。予備期間は10月21日から11月7日である
- 採取量の目標は10g以上。深さ2cm以上のレゴリス(砂や細かい岩のかけら)を狙う
- 火星の衛星の起源には「捕獲説」と「巨大衝突説」があり、試料分析で決着を目指す
- 探査機は約1年で火星に着き、約3年滞在する。フォボスへの着陸は2回試みる
- 試料カプセルの地球帰還は2031年度の予定である
打ち上げから帰還まで5年の道のり
MMXの計画期間は5年である。JAXAの打ち上げ計画書によると、打ち上げ日は2026年10月20日で、予備期間は11月7日まで設けられている。天候や機体の状況で日は動きうる。
打ち上げの約1時間11分後に、探査機は火星へ向かう軌道に入る。その後、約1年かけて火星の近くに着く。
火星圏での滞在は約3年だ。この間にフォボスとダイモスを観測し、フォボスへの着陸を2度試みて試料を取る。そして約1年かけて地球に戻る。試料カプセルの帰還は2031年度で、産経新聞の報道では回収場所はオーストラリアとされている。
打ち上げは、長い旅の出発点にすぎない。では、この旅の目的は何か。
フォボスの砂で決着をつけたい起源の謎
JAXAの資料は、MMXの目的を「火星衛星の起源論を決着させること」と書いている。起源には2つの説がある。
1つ目は捕獲説だ。もともと遠くにあった小惑星が、他の天体との衝突などで軌道を変え、火星の重力に捕まったとする。2つ目は巨大衝突説だ。火星に大きな天体がぶつかり、飛び散った破片が再び集まって衛星になったとする。
どちらの説かで、火星圏の成り立ちの語り方が変わる。捕獲説なら、衛星は火星とは別の場所で生まれた天体だ。巨大衝突説なら、衛星は火星の一部から生まれたことになる。
遠くから見ているだけでは、この2説は区別しにくい。砂に含まれる鉱物や元素の組成を地球の研究室で測れば、材料の由来を直接調べられる。ここに、試料を持ち帰る意味がある。
火星の衛星は「未踏峰」と呼ばれる
フォボスとダイモスは直径が約10〜20kmの小天体だ。JAXAは、まだ直接探査されたことのない「太陽系で最重要な未踏峰」と呼んでいる。
試料を調べる目的は、起源だけではない。含水鉱物、水、有機物の有無を分析し、火星圏の水や有機物のありかを明らかにする。これは、地球型惑星で生命が生まれ、住める環境になった理由を探る研究につながる。
なお、火星の地表に降りる場合と比べた説明は、JAXAの資料には出てこない。ここでは、JAXAが挙げた目的から、衛星を選ぶ理由を読み解く。衛星は、起源の謎を抱えたまま手つかずで残る天体なのだ。
次に、なぜ日本がこの挑戦に踏み出せるのかを見る。
はやぶさ2の技術が生きる小天体への着陸
JAXAは、MMXを「はやぶさ、はやぶさ2で培ったサンプルリターン技術を活かす」計画と位置づけている。地球圏の外の天体から試料の採取と回収に成功した国は、これまで日本と米国だけだとJAXAは説明する。
フォボスは小さい。着陸して滞在できるのは数時間である。その間に、マニピュレータとコアラー(筒状の採取具)を使う装置で、2cm以上の深さから10g以上を採る。はやぶさ2の目標は0.1gだったので、約100倍の量を狙う計画だ。
採取は2種類の装置で行う。1つは、表面から深さ約2cmまでのレゴリスを集めて、カプセルに移す装置だ。もう1つは、窒素ガスを吹いて表層の砂を素早く集める、NASA提供の装置である。
また、MMXは本体より先に、フランスとドイツが開発した小型ローバIDEFIXを降ろす。地面の硬さなどを調べ、母船の着陸と採取の危険を減らすためである。
この計画は日本だけでは進まない。NASAは元素を調べるMEGANEを、フランスのCNESは近赤外分光装置MIRSを提供する。国際協力の計画である。
有人火星探査の拠点になるかを調べる
MMXには、もう1つの目的がある。JAXAは、火星の衛星を有人火星探査の軌道上の拠点と見ている。そこで、表面の地形や地盤、周辺の環境を詳しく観測し、拠点として使えるかを調べる。
MMXは、国際宇宙探査の主な目標である火星圏に向けた、日本の取り組みの一番手に位置づけられている。放射線の量を測る装置も積み、被ばく線量の評価方法も確立する。
さらに、NHKが協力する8Kと4Kの高精細カメラ(SHV)も載る。映像で運用を見せる技術と、一般への発信に役立てる技術を得るためだ。
試料の分析は、衛星そのものの話にとどまらない。原始太陽系で、水や有機物がどう運ばれ、天体に届いたのかを知る手がかりにもなる。
MMXのよくある疑問
Q. 打ち上げの日時と予備期間はいつか?
予定は2026年10月20日午前4時41分3秒である。種子島宇宙センターから、H3ロケット10号機で打ち上げる。予備期間は10月21日から11月7日までで、期間中の打ち上げ時刻は日ごとに決まる。
Q. 探査機はいつ火星に着き、いつ戻るのか?
打ち上げの約1年後に火星の近くへ着く予定だ。火星圏には約3年とどまり、観測とサンプル採取を行う。その後、約1年かけて地球に戻り、試料カプセルの帰還は2031年度の予定である。
Q. 「世界初」とは何が初めてなのか?
火星圏の天体から試料を地球へ持ち帰るのが、世界で初めてという意味だ。JAXAは、火星の衛星を直接探査した例もまだないとしている。着陸は2回試みる予定で、成功すれば歴史的な成果になる。
Q. ダイモスにも降りるのか?
着陸を試みるのはフォボスだけだ。ダイモスは、火星に滞在する約3年の間に観測の対象となる。2つの衛星を見比べることで、火星圏の成り立ちを調べる。
Q. 持ち帰った砂から何がわかるのか?
含水鉱物、水、有機物の分析ができる。元素の組成から、衛星が捕獲された小惑星なのか、衝突の破片から生まれたのかを調べる材料にもなる。火星圏の水の分布を知る手がかりにもなる。
Q. 外国はどう関わっているのか?
NASA、CNES、DLRが機器や小型ローバを提供している。NASAはガンマ線・中性子線分光計と窒素ガスの採取機構を、CNESは近赤外分光装置を出す。CNESとDLRは、ローバIDEFIXを共同で開発した。
答えは衛星の起源と火星圏の水にある
MMXがフォボスの砂を狙う理由は、3つに整理できる。起源の2説に決着をつけたいこと。はやぶさ2で磨いた小天体の採取技術を使えること。そして、有人探査の拠点になる天体を詳しく調べたいことである。
火星本体と比べる説明は、JAXAの資料にはない。それでも、「未踏峰」の衛星から世界初の試料を持ち帰る目的は、はっきり示されている。
打ち上げは10月20日の午前4時41分。予備期間の終わりは11月7日だ。探査機が火星へ向けて旅立つ日が、5年がかりの挑戦の始まりになる。
なぜ流行っているのか?
JAXAは2026年8月20日にMMXの打ち上げ日を発表し、10月18日の記者会見では準備が整ったと説明された。打ち上げの前日にあたる10月19日は、日時が具体的で、成功すれば世界初という分かりやすさもあり、関心が集まりやすい。さらに、火星本体ではなく小さな衛星を狙う点に疑問を持つ読者が多い。はやぶさ2の成功で小天体探査への信頼が高まっていることや、NHKの8K・4Kカメラ搭載など映像面の話題も加わり、報道が重なって検索が増えたと考えられる。
この記事の根拠
一次ソース 2件エビデンス 3件
ファクトチェック結果を確認する
打ち上げ日時(2026年10月20日4時41分3秒、予備期間10月21日〜11月7日)、H3-24L形態、探査機質量約4,480kg、ミッション期間5年はJAXA打ち上げ計画書で確認。起源2説、採取量10g以上(深さ2cm以上)、はやぶさ2の目標0.1g、滞在約3年・着陸2回・帰還2031年度はJAXA MMXリーフレットで確認。共同通信配信記事(秋田魁新報)、NHK、産経新聞の報道で打ち上げ予定を確認。回収場所のオーストラリアは産経の報道に基づく。10月19日時点の直前の天候・機体状況は未確認で、本文では予定として記述した。