富士フイルムはなぜ磁気テープを約20年ぶりに大型増産するのか、100億円と出荷容量5倍の狙いをAI時代の保存需要から読む
この記事のポイント
- 富士フイルムはなぜ磁気テープを約20年ぶりに大型増産するのか
- 2028年度までに100億円、出荷容量は2025年度比5倍
- AIのデータ保存需要と切り離して保管できる強みから整理する
目次
2026年10月28日、日本経済新聞は富士フイルムが磁気テープを約20年ぶりに大型増産すると報じた。神奈川県小田原市の工場に2028年度までに計100億円を投じ、容量ベースの出荷量を2025年度比で5倍にする。背景として、AIの普及で保存するデータが増えていることが挙げられている。
なぜ富士フイルムは、HDDやクラウドが主役に見える今になって、磁気テープへ大きく投資するのか。報道と同社の公式情報から、その理由を順にたどる。
- 富士フイルムは小田原市の工場に、2028年度までに計100億円を投じる。
- 容量ベースの出荷量は、2025年度比で5倍に引き上げる計画だ。
- 大規模な増産投資は約20年ぶりで、AIデータセンター向けの需要増が背景にある。
- 増産の中心は、最大100テラバイトを記録できる最新の先端品だ。
- テープは回線から切り離して保管でき、サイバー攻撃での消失リスクを下げられる。
100億円で出荷容量5倍にする計画の中身
報道で確認できる計画は、次の4点である。投資額は2028年度までに計100億円。場所は神奈川県小田原市の工場。目標は、容量ベースの出荷量を2025年度比で5倍にすること。そして、増産の中心は最大100テラバイトの先端品だ。
「5倍」は台数ではなく容量の話である点に注意したい。1巻あたりの容量が大きい新製品を中心に作るため、巻数の伸びより容量の伸びのほうが大きくなる。台数ベースで何倍になるかは、確認できた範囲では示されていない。
小田原の工場は、富士フイルムが磁気テープを事業にして以来、一貫してテープを作ってきた拠点だ。同社の公式コラムによると、磁気塗料の調合、塗布、裁断、カートリッジへの組み立てまでを同じサイトで行う。そこへ約20年ぶりの大型投資が入ることになる。
なお、今回の投資額や時期は日経の報道が出どころである。同社の公式発表は、探した範囲では見つからなかった。有料記事の本文も一部しか読めないため、工場内のどの工程を増やすのかといった内訳は分からない。
答えはAIデータセンターの需要増にある
日経は、大型増産の理由を、AIデータセンター向けの需要増に応えるためと伝えている。台湾の業界メディアDigitimesも、AIの拡大で世界のデータ生成が増え、長期保存の需要が高まっていると報じた。
AIは学習や推論のために大量のデータを使う。使い終わったデータも、すぐには捨てられない。再学習に使うことも、記録として残すこともあるからだ。ただし、どのデータがどれだけテープに回るのかは、報道では数字になっていない。
富士フイルム自身も、2025年12月のリリースで、テープの出荷量が2020年以降、年10%超のペースで伸びていると述べている。AI向けの長期保存の需要が一因だという書き方だ。需要の伸びは今回の発表より前から続いていたことになる。
つまり、増産は急な思いつきではなく、数年続く需要の伸びに対する設備側の対応と読める。ただし、なぜ5倍という水準なのかは、同社の説明が公開されておらず分からない。
100TB級の新製品が増産の中心になる
増産の中心とされる最大100テラバイトの先端品は、2026年1月に発売された「FUJIFILM LTO Ultrium10(40TB)データカートリッジ」を指すとみられる。同社は2025年12月22日にこの製品を発表した。
容量は圧縮時で最大100テラバイト、非圧縮で40テラバイトである。2025年6月に出した30TB版より約33%増えた。同社の説明では、アラミドフィルムを使ってテープの厚みを4.0マイクロメートルに薄くし、1巻に入るテープ長を約30%伸ばして1337メートルにした。
1巻あたりの容量が増えると、同じ量のデータを保存するために必要なカートリッジとラックの数が減る。データセンターにとっては、置き場所を抑えながら保存量を増やしやすい。なお、価格はオープンで、公式発表に具体的な金額はない。
作る側から見ても、新製品に絞って増やす意味はある。需要が見込める先端品に設備を集中できるからだ。これは報道と製品情報から導いた筆者の整理であり、同社が理由として説明したものではない。
切り離して保管できる点とサイバー攻撃
もう一つの理由として、見出しに「AIデータ保存リスク低く」とあるように、保存リスクの低さが語られている。富士フイルムはリリースで、テープをネットワークから物理的に切り離せるため、サイバー事件によるデータ損失のリスクを下げられると説明している。
回線につながったディスクやクラウドは、攻撃を受けるとバックアップごと壊されたり暗号化されたりすることがある。取り出して棚に置いたテープは、その経路からは触れない。この切り離した状態は「エアギャップ」と呼ばれる。
実際に、被害の拡大を止めるため利用者に退避や電源オフを求めた事例もある。そうした場面はGMOのデスクトップクラウドの事例で整理している。バックアップをどこに、どう持つかは、攻撃を受けた側の復旧力を左右する。
ただし、日経の公開部分には、このリスクの低さが増産の決め手になったという記述は確認できなかった。サイバー対策は、テープの強みとして同社が示している点にとどめて読むのが安全だ。
よくある質問
Q. 富士フイルムの磁気テープ増産は、いつまでにいくらかけるのか。
報道によると、2028年度までに計100億円を小田原市の工場に投じる。容量ベースの出荷量を2025年度比で5倍にする計画だ。投資の内訳や各年度の配分は、公開された範囲では分からない。
Q. 5倍とは何が5倍になるのか。
日経は、容量ベースの出荷量が2025年度比で5倍になると伝えている。台数ではなく、保存できる容量の合計である。Digitimesは生産能力が5倍になると表現しており、言い方は媒体で異なる。
Q. 磁気テープはHDDやクラウドより古い技術ではないのか。
技術としては古いが、役割が違う。テープは大量のデータを長く、低いコストで保存する用途に向く。富士フイルムも、安全に長期保管するための媒体と位置づけている。常に読み書きするデータには、別の記憶装置が使われる。
Q. 増産の中心になる100テラバイトとは、実際に書き込める容量か。
最大100テラバイトは圧縮した場合の値である。圧縮しない場合は40テラバイトだ。実際の容量は、データの種類による圧縮のしやすさで変わる。画像や動画のように圧縮しにくいデータでは、40テラバイトに近づく。
Q. テープなら、サイバー攻撃でデータは絶対に失われないのか。
絶対ではない。同社の説明は、ネットワークから切り離すことでデータ損失のリスクを下げられるというものだ。保管場所の火災や、テープを読むドライブ側の問題など、別のリスクは残る。
Q. この増産は今後どうなっていくのか。
2028年度が一つの目安である。工場の稼働時期や、需要が計画どおり伸びるかは、現時点で公表された情報からは読み取れない。同社の決算説明や公式発表で、投資の進み具合が示されるかが注目点になる。
約20年ぶりの増産は保存需要の表れ
答えを一言でまとめると、AIでデータが増え、長く安全に残す手段としてのテープの需要が伸びているからである。報道が示した大型増産の理由は、AIデータセンター向けの需要増だ。
その需要を受けとめる製品も、2026年1月に出た。40テラバイトの新カートリッジは、1巻あたりの容量を約33%増やした。切り離して保管できる強みは、サイバー攻撃が相次ぐ今、保存の選択肢としての価値を高めている。
一方で、投資額や時期は報道が出どころで、5倍という水準の根拠は公開されていない。今後は、同社の公式な説明と、実際の出荷容量がどう動くかを確かめたい。古い技術に見えるテープが、AI時代の保存の裏側を支えている。
なぜ流行っているのか?
AIの普及で生成・保存されるデータが増え、使い終えたデータも再学習や記録のために長く残す需要が高まっている。こうした中で、日経が富士フイルムの磁気テープ約20年ぶりの大型増産を報じ、SNSでは容量単価、長期保存、サイバー攻撃対策への関心が集まった。テープは回線から切り離して保管でき、攻撃でバックアップごと失う事態を避けやすい。2026年1月にはLTO Ultrium10の40TB版が出ており、新製品と増産のタイミングが重なったことも注目を集めた要因とみられる。ただし増産の理由として公式に示された説明は公開されておらず、5倍という水準の根拠も不明である。
この記事の根拠
一次ソース 2件エビデンス 3件参考資料 1件
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投資額100億円、2028年度まで、小田原市の工場、容量ベースの出荷量を2025年度比5倍、約20年ぶり、AIデータセンター向け需要増は日経(公開部分)と同記事を伝えたトレーダーズ・ウェブ、Digitimesで確認した。同社の公式発表は探索範囲では見つからず、primary は0件。LTO Ultrium10(40TB)の発売時期・容量・エアギャップの説明は富士フイルムの公式リリースで確認した。5倍の根拠や投資内訳は未公開のため本文に書いていない。
出典・参考リンク
- [エビデンス]富士フイルム、磁気テープ20年ぶり大型増産 AIデータ保存リスク低く(日本経済新聞)
- [エビデンス]Fujifilm to boost magnetic tape capacity 5x as AI data storage demand grows(DIGITIMES)
- [参考]富士フイルムHD-底堅い 磁気テープ20年ぶり大型増産(トレーダーズ・ウェブ)
- [一次ソース]Fujifilm Launches LTO Ultrium 10 (40TB) Data Cartridge(富士フイルム)
- [一次ソース]テープメディア生産工程と技術の紹介(富士フイルム)
- [エビデンス]富士フイルム、磁気テープ新製品 最大100テラバイトのデータ記録(日本経済新聞)