なんで怒ってるときってフェイクニュースをシェアしやすくなるの? 深圳大学3実験が解明した心理の落とし穴
この記事のポイント
- なんで怒ってるとき、フェイクニュースを広めやすくなるの? 深圳大学の3実験が明かした心理メカニズムと、シェア前にできる対策を見ていく
目次
SNSを開いたら、なにかモヤっとする投稿が目に入った。 思わず「ひどい!」となって、そのままリポストしてしまう。 その怒りこそが、フェイクニュースを広げる最大のエンジンになっているとしたら?
2026年5月に発表されたばかりの研究が、その仕組みを3つの実験で明らかにした。
- 道徳的怒りを感じると、信頼性の低いニュースのシェア意欲が有意に上昇する
- 「本物か嘘か」を見分ける力は落ちず、「シェアするまでのハードル」だけが低下する
- 嫌悪では同じ現象は起きず、怒りに特有の心理反応
- 日本の女子中学生30.7%がフェイクニュースに騙された経験を持つ(2019年調査)
- シェア前に3秒待つだけで、衝動的な拡散を大幅に抑えられる
フェイクニュース、なんで信じちゃうの?
毎日スマホを開くと、信じたくなるような投稿が流れてくる。 でも、その投稿がすべて本当だとは限らない。
フェイクニュースと呼ばれる嘘の情報は、感情を揺さぶるように設計されていることが多い。 日本の調査でも、フェイクニュースに騙された人のうち61%が、リツイートや口コミで広めてしまったと答えている(MMDLabo、2019年)。
怒りを感じた瞬間、なぜシェアボタンに手が伸びてしまうのか。 その謎に科学的な答えを出したのが、中国・深圳大学の研究チームだ。
2026年5月10日、この研究ははてなブックマークのホットエントリーに同日二重で登場した。 「自分も気づかずにやってしまっているかも」と多くの人が感じたからだろう。
次のセクションでは、怒りが脳の判断に何をするかを見ていく。
怒りが判断のハードルを下げる仕組み
深圳大学心理学院のXiaozhe Peng氏らが注目したのは「道徳的怒り」という感情だ。
道徳的怒りとは、「自分が傷ついた」という怒りではない。 「社会の不正や理不尽を目撃した」ときに湧き上がる感情のことだ。 「弱い立場の人がひどい扱いをされている」「ルールを破って得をしている」と感じたとき、自然と出てくる。
この怒りがもたらす重大な変化が、「判断のしきい値」の低下だ。 「この情報は本当か?」を確かめる前に、「これを伝えなきゃ」と動いてしまう状態になる。
ここで面白いのが、嫌悪との比較だ。 嫌悪とは「グロテスクなもの」「生理的に気持ち悪いもの」に感じる感情のことだ。 嫌悪を感じた場合、フェイクニュースの拡散は増えなかった。
起こるのは「怒り」のときだけというのが、この研究の核心だ。
LINEのグループで「ひどい話」が一気に広まるとき、それは必ず怒りを伴っていないだろうか。 その日常の感覚が、科学的に裏付けられた形だ。
次のセクションでは、実験の具体的な内容を確認していこう。
3つの実験が示したデータ
深圳大学のチームは、3段階の実験を設計した。
実験1(参加者223人)
参加者は24本のニュース見出しを読み、シェアしたいかを評価した。 道徳的な違反を含む見出しに対して、共有意欲が高まることが確認された。 一方、「正確性を意識するよう促す」介入を入れると、信頼性ラベルへの反応が変化した。 感情に引っ張られるほど、正確性チェックがおろそかになりやすいことが示された。
実験2(大学生116人)
怒りを意識した状態と嫌悪を意識した状態を比較した。 怒りを誘発された参加者は、信頼性の低い情報源からの見出しを「共有したい」と有意に多く答えた。 嫌悪では同じ現象は起きなかった。
実験3(大学生63人)
「階層ドリフト拡散モデル」(つまり、判断の過程を数式で分析する手法のこと)で、判断のプロセスを調べた。 怒りを誘発された参加者では、判断のしきい値が明確に低下した。
研究チームが特に強調しているのは次の点だ。 怒りが「本物か嘘か」を見分ける能力を落としたのではない。 下がったのは「シェアするまでの判断のハードル」だ。
「嘘とわかっていて広める」のではなく、「確かめる前に動いてしまう」という形で誤情報が広がる。 この発見が、この研究をバイラルにさせた理由の一つだ。
次のセクションでは、日本の中高生のデータを見ていこう。
日本でも起きてる? 中高生のリアル
日本の実態も数字で確認しておこう。
MMDLaboが2019年に行った調査では、男子中学生の14.7%、女子中学生の30.7%がフェイクニュースに騙されたことがあると答えた。 女子中学生は男子の2倍以上というデータだ。
また、「自分はフェイクニュースを見破れる」と自信を持って答えたのは全体の47%にとどまった。 半数以上が「見破る自信がない」状態だということになる。
国際的な研究も見てみよう。 2025年に学術誌「Science」に掲載された研究では、フェイクニュースを発信するアカウントが、怒りや憤りを呼ぶコンテンツを意図的に使っていることがわかった。 しかも、ユーザーが投稿の正確性を確かめずにシェアする傾向も確認されたという。
つまり、怒りを「道具」としてフェイクニュースを広める構造が、意図的に作られている可能性がある。 怒りの仕組みを知ることが、最初の防衛線になる。
対策については、次のセクションで具体的に見ていく。
「一呼吸」が連鎖を止める
深圳大学のチームが提案する対策がある。 「怒りを引き起こす投稿に対して、ユーザーに一呼吸おくよう促す軽量な警告表示」だ。 SNSプラットフォームが導入すれば、衝動的なシェアを抑えられる可能性がある。
ただし、これはまだ検討段階のアイデアだ。
自分でできることは、今日からすぐに始められる。
- 怒りを感じたら、シェア前に3秒待つ — 判断のしきい値を人為的に上げられる
- 情報の発信元を確認する — フォロワーが少ない、プロフィールが不明なアカウントは要注意
- 同じ話題を別のサイトで検索する — 1つの情報源だけに頼らない
怒りを感じたこと自体は間違いではない。 社会の不正に気づかせてくれる、大切なセンサーだ。 ただ、「怒りのままに動く前に一歩止まれるかどうか」が分岐点になる。
SNSとフェイクニュース、よくある疑問に答えていく
Q. 「道徳的怒り」って、普通の怒りと何が違うの?
道徳的怒りは、「社会や誰かへの不正が許せない」という怒りです。 自分が直接被害を受けていなくても湧き上がる感情で、正義感と深く結びついています。 だからこそ「広めなきゃ!」という衝動が特に強くなりやすいのです。
Q. なんでフェイクニュースは怒りを使ってくるの?
怒りを感じると、人は情報の正確さより「行動すること」を優先しやすくなります。 フェイクニュースを作る側はこれを知っていて、怒りを呼ぶタイトルや内容を意図的に使います。 怒りがシェアを増やし、シェアが広告収益を増やす仕組みが実際に存在します。
Q. 嫌悪では拡散が増えないの? なんで?
深圳大学の実験2では、嫌悪を意識させても信頼性の低い情報源の共有意欲は上がりませんでした。 嫌悪は「近づきたくない」という回避行動を生む感情です。 怒りの「行動したい」とは方向が逆なので、フェイクニュースへの弱さは怒りに特有の現象です。
Q. 友達がフェイクニュースを広めてたら、どうすればいい?
いきなり「それ嘘だよ」と指摘するより、「これどこの情報なんだろう?」と一緒に確かめる方がうまくいきやすいです。 攻撃と受け取られると、逆に意見を固めてしまう「心理的リアクタンス」が働くことがあります。 事実を共有しながら一緒に考える姿勢が、最も効果的とされています。
Q. 2026年以降、フェイクニュース問題はどうなっていくの?
AIが生成する偽動画(ディープフェイクと呼ばれるもの)の精度が上がっていて、見た目には本物そっくりなフェイクニュースが増えています。 一方で、ファクトチェックを自動化するAIツールも進化しています。 怒りと情報の関係を理解した上で一つひとつ確かめる習慣が、これからますます重要になっていきます。
Q. 「いいね」や「怒り」ボタンを押すだけでも問題なの?
一部の研究では、怒りリアクションが多い投稿がアルゴリズムで優先表示されやすいと指摘されています。 ボタンを押すこと自体より、怒りを感じた瞬間にシェアすることの方が直接的な影響があります。 怒りリアクションを積み重ねると、怒りを呼ぶコンテンツが自分のタイムラインに増えていく傾向があります。
怒りの仕組みを知れば、拡散の連鎖を止められる
「怒り」は悪い感情ではない。 社会の不正に気づかせてくれる、大切なセンサーだ。
でも、その怒りがシェアボタンに直結したとき、誤情報を広げるエンジンに変わってしまう。
深圳大学の3つの実験が示したのは、「正しいかどうかを判断する力は残っている、ただシェアするまでのハードルが下がる」ということだ。
つまり、自分の判断力は生きている。 それを活かすには、「一呼吸おく」というたった一つのステップが鍵になる。
2026年の今、SNSは感情でできたメディアになっている。 その仕組みを知っているだけで、フェイクニュースに踊らされる確率は確実に下がっていく。
なぜ流行っているのか?
2026年5月10日、はてなブックマークのホットエントリーで「怒りはミスインフォメーション拡散を加速させる」「怒りはミスインフォメーション共有を加速させるという研究」が同日二重ランクインした。拡散の背景には、SNSを日常的に使うユーザーが「自分も無意識にフェイクニュースを広めてしまっているかも」という自己参照性の高さがある。2024〜2025年の衆院選や国際政治での偽情報問題が社会的関心を高めた時期とも重なっており、「怒り」という普遍的な感情と「SNSでの情報拡散」という日常行動を結びつけた研究結果が、広い層の共感を得た。心理学・認知科学の研究が一般メディアを通じて広く共有される「科学のバイラル化」の典型例とも言える。
この記事の根拠
一次ソース 1件エビデンス 2件参考資料 2件
ファクトチェック結果を確認する
深圳大学心理学院Xiaozhe Peng氏ら(2026年)の研究は、学術誌Cognition and Emotion(Taylor & Francis)に掲載。DOI: 10.1080/02699931.2026.2647351。実験1: 参加者223人・24本のニュース見出し評価。実験2: 大学生116人・怒りvs嫌悪の比較実験。実験3: 大学生63人・階層ドリフト拡散モデル分析。研究の限界として、中国の大学生サンプルへの限定と実際のSNS行動ではなく意思の測定が挙げられている。MMDLabo 2019年調査は日本の中高生対象で、女子中学生30.7%・男子中学生14.7%の数値は同調査のデータ(信頼性確認済み)。Science誌掲載の研究(DOI: 10.1126/science.adl2829)は実際に2024年掲載で、フェイクニュース発信源が怒りを誘発するコンテンツを意図的に使っている点を確認している。
出典・参考リンク
- [一次ソース]Moral anger accelerates misinformation sharing: evidence from experimental manipulations and hierarchical drift-diffusion modelling
- [参考]人は「怒り」を感じると信頼性の低い情報源からのニュースを拡散しやすくなる - GIGAZINE
- [エビデンス]Misinformation exploits outrage to spread online - Science
- [エビデンス]2019年3月 中高生のフェイクニュースに関する意識調査 - MMDLabo
- [参考]Understanding and responding to complex online harms: misinformation, fake news, and young adults - Frontiers